クリティカルシンキングは思考方法のツールです。
問題の解決方法を思案するとき、人に物事を効果的に伝えたいとき、悩み事を整理したいとき、いろんなときに利用できます。
クリティカルシンキングの考え方については様々な情報が本が出ており、スクールもやっております。ですがどれも問題や例題が難しいと感じました。私のキャリアは高卒でフリーターから始まったのでまともなビジネスの世界の例題は具体的にイメージがしづらかったです。
そこで、どうしてもこのツールを使いこなしたかった私が、様々な本やグロービスのクリティカルシンキングを受講し、実際に私生活で使った体験も含め、噛み砕いてこの記事にまとめます。
テーマは誰しもが考えるであろう「残業を減らす方法」を選びました。そして、私の体験も元に実際に実行した思考過程も記載しております。
この記事の想定読者
- クリティカルシンキングをこれから学ぼうとしているひと
- 学び始めたけど混乱しているひと
- 学んだけど忘れかけていて振り返りたいひと
クリティカルシンキングの全体像
ご存知の方は飛ばしてください。
これから行う思考課程の概要をまとめます。以下の7ステップ行います。
-
- イシューの特定(問題を言語化・具体化)
- 枠組みの設定(考えるべきことを考える)
- 仮説を立てる(問題点があっているかどうか)
- 情報を集め(仮説の答え合わせ)
- 結論づけ(イシューに対する回答)
- 解決できる問題になるまで繰り返す
- 解決策を考える
考えやすいように、様々な課程に名称をつけています。それぞれの過程でどのようなことをするのか?を記載していますので、その項目を見て、名称の意味を理解していただければと思います。
またこの記事で行うのは、自分の思考の整理と、自分の問題解決のために行うものです。
他人のものを分析し、他人に解決策を押し付けるものではありません。そうすると喧嘩になるだけです。そのときに使う思考方法はまた別途存在しますので、またまとめようと思います。
クリティカルシンキングの実践
1.イシューの特定(問題を具体化)
まずは問題点を具体的にします。このことを「イシューの特定」と呼びます。
この過程での具体的な成果物は「イシューについての具体的な文章」です。
イシューとは?
クリティカルシンキングの過程で一番頭を使う箇所になります。なぜなら、ここの問いの選定を間違えると的外れは解決策が出てきてしまうからです。
途中まで進めて違和感があればこの手順をやり直します。(振り出しに戻るのは嫌な気持ちになると思いますがよくやります)
今回のテーマ「残業を減らす方法」ですが、これはイシューとしてはまだイマイチです。抽象的すぎます。
- 誰の残業を減らしたいのか?
- 残業を減らしたいのであれば早く帰ればいいのでは?
- 残業を減らすとは根本的に何をすることなのか?
こういった点が具体的にできる余地があります。
読む人やタイミングによって感じ方が変わってしまうのを防ぐため、ここでは抽象的な問題を具体的にする方法を記載します。
背景や前提を明確にする
イシューが挙がった背景や、暗黙の前提を言語化します。
この作業を行わないと、例え具体的なイシューができたとしても「アクションにつながらない結論」が挙がってしまい意味がなくなります。
例えば、現場の人間の視点と管理者の視点、経営者の視点で考える「残業を減らす」は意味合いや解決するために行える作業は変わってきてしまいます。
クリティカルシンキングした結果「経営者が悪い」という結論じゃただの愚痴になってしまいます。愚痴をまとめることを目的とするのであれば問題ないですが、せっかく考えるのであれば建設的に考えるべきです。経営者に向けて改善案を提示することを目的とすればアクションにつながるため、自分だけが残業を減らしたいのか、現場全体で減らす方法を提案するのか、会社全体で減らしたいから経営者に提案したいのかなどの背景を明確にします。
今回のイシューの背景は以下
- 自分の残業を減らしたい。
- いつも定時で仕事が終わらず残業をしている。
- SIerとして働いている。
これで少しイシューが明確になります。書き換えてみましょう。
「残業を減らす」→「なぜ私は定時内で仕事が終わらずことができないのか?」
残業を減らすだと、とるアクションが「早く帰る」くらいしか考えられませんでしたが、「定時内で仕事を終わらせる」だと様々なアクションが考えられるようになると思います。
分解を行う
まだイシューはあいまいです。今度は言葉を明確化します。
今回の場合「仕事」という言葉があいまいです。言葉を明確にするには分解というテクニックを使えます。
仕事という言葉を分解すると私の場合は「開発作業やプロジェクトの進捗管理や顧客折衝などの業務」になります。そして、どの仕事が終わらないから残業しているのかを調べることができると思います。
自分の業務を占める割合がどれが多いのか?を分析して問題がありそうなものをピックアップして仕事という言葉を変更します。
しかし、私の場合は、すべて同じ割合だったのでこの分解方法では違いそうだったので別の視点に切り替えました。
仕事の量に困ってるのか?仕事の質に困ってるのか?
今回の場合、仕事の量に困っていたのでそちらに変換。よってイシューは以下のようになりました。
「なぜ私には定時内に終わらないほどの仕事量があるのか?」
分解のコツ
- 要素分解(売上は原価と利益の要素がある)
- 因数分解(売上=客数×客単価)
2.枠組みの設定
さて、考えるべきイシュー「なぜ私には定時内に終わらないほどの仕事量があるのか?」となったところで、次は枠組みを決めます。
なぜ、枠組みを考えるかというと、イシューの段階だとテーマが大きいためアイデアや考えが分散してしまいます。「何について考えていたんだっけ?」ということもよく出てきます。
それを防ぎ、思考を最高のパフォーマンスで活用するため「何について考えればイシューに対する答えが出せるのか?」を先に考えておきます。
フレームワークを使う
枠組みという言葉だけ聞くと身構えてしまうかもしれませんが、既に触れている人もいるかもしれません。
何について考えるか?は実はツールがあります。「フレームワーク」と呼ばれています。
以下のような言葉は聞いたことがないでしょうか?
- 3C分析
- SWOT分析
- 4P分析
これらがフレームワークであり、何について考えるか?を定義したものになります。
イシューを考えるに際して何について考えれば答えが出るのかをフレームワークと照らし合わせて決定していきます。
今回私は「QCD」をベースに考えました。システム開発の過程における問題だと思ったので。
- Q…予定外の仕事に原因はないか?
- C…1つの仕事にかかる時間に原因はないか?
- D…納期や計画時点に原因はないか?
独自に枠組みを考えるコツ
イシューが具体的になりすぎていると、汎用的な手法であるフレームワークは使えなくなってきます。その場合は自前でフレームワークを作ることになります。
こちらに関しては、「6.解決できる問題になるまで繰り返す」で実践します。
最後のまとめでフレームワークを使った場合と自前で作成する場合を並べて記載しますので、見比べたい場合はそちらもご覧ください。
3.仮説を立てる
何について考えるか?が決まったところで、考えていくことになりますが、考えるのを楽に高速に行う手法があります。仮説を立てて立証する手法がこれに当たります。
まずは立証できるかどうかは無視して質問に対する回答を想像で構わないので仮説を立てます。
- Q…予定外の仕事に原因はないか?
- 顧客からの追加要望はないか
- 業務外の仕事に時間がかかっていないか
- C…1つの仕事にかかる時間に原因はないか?
- 仕事の手戻りが多い
- 未経験者の教育コストがかかっている
- D…納期や計画時点に原因はないか?
- アサイン案件の数が多くなっている
- 納期が短い
仮説の注意
- 仮説を立てるメリットは「解決の速度が上がる」
- デメリットはもれ偏りがあると「成果につながらない」
- 思いつきや印象で結論を出すと「成果につながらない」
- 数は、論点に答えるに当たって網羅しているかどうか
- 仮説が「枠組みの問い」に答えていることを確認する
- BIGWORD(でかい主語、抽象的な言葉)は出さない
4.情報集め
仮説を立てたらあとは実証するだけです。役に立ちそうな事実を考えてどんどん並べていきます。肯定するものだけでなく否定になりそうな情報もつけるようにしましょう。
かもしれないけどわからない。といった情報でもとりあえず書いておいて「要調査」といった表現で記載しておきます。
実証できない場合はそれはそれで問題ないです(ただし、その部分は前提を置いたうえで結論付けすること)
- Q…予定外の仕事に原因はないか?
- 顧客からの追加要望はないか
- 追加要望に関しては契約開始時点で受け付けられないようにしている
- それでも要望される場合は営業に任せて負荷がかからないようにしている
- それでも要望される際は追加費用をいただき別途スケジュール変更を行なっている
- 業務外の仕事に時間がかかっていないか
- 業務外の仕事は時間を調整して行っており本業をおろそかにすることはない。
- やりがい搾取として納得してやっているのでそれは別にいい
- 顧客からの追加要望はないか
- C…1つの仕事にかかる時間に原因はないか?
- 仕事の手戻りが多い
- 依頼した通りに成果物が上がってこないことが多い
- 何度も成果イメージを共有する
- 何度もやることを伝えている
- 未経験者の教育コストがかかっている
- 未経験者率が多い
- 研修制度がないに等しいためゼロベースで知識を教えている
- 仕事の手戻りが多い
- D…納期や計画時点に原因はないか?
- アサイン案件の数が多くなっている
- アサイン案件の数は多い
- 毎月翌月のアサイン比率を設定しており残業しないようにしている
- 納期が短い
- 納期は十分にバッファを持って案件を受注している
- タスクごとの予定スケジュールも多めに取っているが作業者に合わせてスケジュールしているわけではない。
- アサイン案件の数が多くなっている
5.結論づけ
仮説の立証をしたところで結論が見えてきたと思います。
結果を以下にまとめます。
結論を出すときは、イシューに対する回答と一致しているかどうか?を確かめます。
イシューは「なぜ私には定時内に終わらないほどの仕事量があるのか?」でした。
結論は「依頼した仕事の手戻りが多いため」になりました。
6.解決できる問題になるまで繰り返す
これでアクションをとれるのであれば7.解決策を考えるの手順を行います。
今回は新たな問題「仕事の手戻りが多い」ことが分かったので、さらに深堀して「なぜ仕事の手戻りが多いのか?」に対して同じサイクルを回します。
だいたい2~3回はサイクルを回すことが多いです。(最初のイシューの特定があいまいであればあるほど回数は多くなります)
独自に枠組みを考えるコツ
今回はイシューが具体的になっているので汎用的なフレームワークは使えないです。
独自に考えるしかないのですが、これにもある程度コツが存在します。
コツは映像化することです。対象の視点になって具体的に想像してみます。
- 「段階的」…時系列で自分がその場で何を体験しているか想像する
- 「並列的」…自分がその場にいるとして周りに何があるかを想像する
今回は段階的に考えました。作業プロセスの問題だと考えたため、作業プロセスのどこに問題があるか調べたかったからです。
※並列的を選ぶ場合は、誰が?が焦点になることが多いように思います。上司、部下、同僚とか、客、下請け、自社とか。物の場合はそのものを要素分解する場合があります。例えば「なぜうちの会社は内定辞退者が多いのか?」というイシューなら自社の給料・残業時間・有給取得率など。
- 仕事の粒度に問題はないか?
- 作業環境に問題はないか?
- 確認フローに問題はないか?
同じ手順を繰り返すだけなので、省略して結論だけ記載します。
「仕事の粒度は粗いかもしれない。確認フローは作業者任せになっているため要確認」という結論が導かれました。
7.解決策を考える
今回は原因と考えられるものが2つ出てきました。
「仕事の粒度」と「確認フロー」です。
今回は「確認フローが明確化されておらず、動作確認していなかった」と仮定して解決策を考えます。(今回は私の実体験を元にまとめていて、実際そうだったんですが。。。)
解決策の方向性を分解する
解決策の方向性を決めましょう。
枠組みや、イシュー特定の言葉を分解する作業に似ています。
今回は以下の2方向にします。
- 動作確認をしてもらう方法
- 動作確認をしてもらわない方法
大体が、やる方法と逆にやらなかったどうなるか?みたいな考えで進めることが多いと思います。
具体的な策を挙げる
方向性ごとに具体的な策を考えてみます。
- 動作確認をしてもらう方法
- ①チェックリストを作成してそれを行ってから提出をしてもらうようにする
- ②メンバー同士でダブルチェック体制を敷く
- 動作確認をしてもらわない方法
- ③動作確認用のメンバーを用意する
- ④動作確認チェックをスケジュールに組み込むようにする
それで溢れる作業を別途誰かにやってもらう
判断基準を策定する
さて、ここまできたらもう終わったも同然です。どれを選ぶかどうかです。
今回の個人的な悩みの場合は蛇足になってしまいますが一応行っておくと、どの策を選べばいいかを論理的に考える方法があります。
まずは判断基準を策定します。例えば以下があります。
- 効果…どれくらい効果が期待できるか?
- コスト…どれくらい費用や負荷がかからずにできるか?
- スピード…どれだけ実現に時間がかかるか?
- リスク…副作用があるか?
これ以外にも個別にあるようであればそれを選びます。または必要ないものは選ばないのもありです。例えばスピードは気にしないのであれば選択しないなど。
これを元に以下のような表を作ってみると思考の整理に良いかもしれません。
効果 | コスト | スピード | |
①チェックリストを作成してそれを行ってから提出をしてもらうようにする |
◯ チェックリストの出来次第で良い効果が期待できる |
△ チェックリスト作成コストが悩みどころ |
△ チェックリスト作るだけといえばそれだけだが汎用的なものができるかが微妙 |
②メンバー同士でダブルチェック体制を敷く |
△ できない人同士でダブルチェックしても無駄かもしれない |
△ もともと確認していなかったメンバーの作業時間追加ともう一人分の作業時間追加 |
◯ すぐに実践できる |
③動作確認用のメンバーを用意する |
◯ |
× そんなメンバー調達できない |
◯ 調達できれば早い |
④動作確認チェックをスケジュールに組み込むようにするそれで溢れる作業を別途誰かにやってもらう |
△ 結局自分の時間がとられるのであまり変わらない気がする |
× 溢れる作業ができるメンバーがいない |
◯ すぐにはできる |
最後に記号ごとのポイントの設定と、基準ごとに係数を設定すると良いかもしれませんね。
◯2点、△1点、×0点
効果0.5、コスト0.2、スピード0.3
①=2点*0.5 + 1点*0.2+1点*0.3=1.5
②=1点*0.5 + 1点*0.2+2点*0.3=1.3
③=2点*0.5 + 0点*0.2+2点*0.3=1.6
④=1点*0.5 + 0点*0.2+2点*0.3=1.1
数字の大きさから「③動作確認用のメンバーを用意する」が良さそうなので、ネックであるメンバー調達をどうするか考えることになりそうです。
クリティカルシンキング思考過程のおさらい
- イシューの特定
・背景と前提を追う→間違った方向に考えることを防ぐ
・登場している言葉を明確にする→認識の違いを防ぐ - 枠組みを設定する
・フレームワークを使う
・自前で作成するときは映像化
※イシューの答えになるかだけを考える - 仮説を立てる
・仮説を立てるメリットは「解決の速度が上がる」
・デメリットはもれ偏りがあると「成果につながらない」
・思いつきや印象で結論を出すと「成果につながらない」
・数は、論点に答えるに当たって網羅しているかどうか
・仮説が「枠組みの問い」に答えていることを確認する
・BIGWORDは出さない - 情報集め
・肯定するものだけでなく否定になりそうな情報も
・かもしれないけどわからない。といった情報でもとりあえず書く
・実証できない場合は「要調査」などの前提を - 結論づける
・イシューと一致しているか確認 - 解決できる問題になるまで繰り返す
・ボトルネックがわかるまで繰り返す。 - 解決策を考える
・方向性から分解
・具体的な策を考える
・判断基準をまとめる
クリティカルシンキングの心構え
クリティカルシンキングは「批判的思考」という通り、表に出すとみんなから指摘されることがよくありますが、気にせずにラッキーだと思って軽く受け取っておきましょう。
「批判的思考」の意味は、自分の考えを批判的に考えることなので、他人の考えを批判することではないです。自分は批判されたとしても他人は批判しないように。仲間が減りますよ。
クリティカルシンキング実例まとめ
今回は自分の思考整理の場合にクリティカルシンキングを使う方法をまとめました。
コミュニケーションを取る場合や、他人と議論する場合は、「相手」という要素が増えることを念頭におくのでまた全然違ったイシューの背景や枠組みの設定が行われます。
使い始めは面倒くさいですが、慣れてきたら、他人に意見を求められた時に何の話を出すべきかすぐに考えられるのですごくおすすめのツールです。
皆さんもぜひクリティカルシンキング生活を楽しんでください。
ここまでご覧いただきありがとうございました!